last updated 1997/08/13
第90話(全130話)
パピロ ふたたび(1/2)
7 パピロ ふたたび
「星読みが異変を感じ取ったんだってさ」
パピロが言った。
ピートは、どうしてここにパピロがいるのかと驚き、ここで何してるんだよ、と訊いたのだ
った。パピロはピートと同じE棟に入れられていた。そこは言ってみれば貨物室だった。飛行
機の格納庫のような大きさの倉庫に、大小さまざまな箱が天井に接するほど高く積み上げられ
、船が故障した時に使うのだろう機械や工具も山ほど積み上げられている。
そんな倉庫にピートは入れられ、背中のメイン・スイッチをバチンとオフにされた。つまり
マスターはケダック国の捕虜となったわけではなく、ただガラクタとして倉庫に放り込まれた
、ということらしかった。ひどい扱いだと思ったが、ゴミとして扱われ、ポイと捨てられるよ
りはましだった。ピートは自力で補助スイッチをオンにすると、体を動かしはじめる。背中の
スイッチはあくまでも簡易的なもので、それがオフになってもコンピュータは作動を続けるし
、コンピュータまで作動停止にするためには、正式の手順を踏まなければならない。パスワー
ドを打ち込み、機能を停止していいかどうかを確認させ、その上で四つの番号を打ち込んで、
ようやくコンピュータは停止し、マスターの機能は完全にオフになる。そういう手順を踏まず
に、ただスイッチをオフにしただけではマスターは決して停止しないのだった。茶色い花に導
かれて谷底へ落下するようなことがない限りは。
しかもいまのマスターにはピートが憑依している。コンピュータを停止させても、ピートの
意思が目覚めている限り、ピートは好きな時にマスターを再駆動させられた。
倉庫の中で再駆動したマスターは、何処からか声が聞こえるのにすぐ気が付いた。
「おーい、マスターちゃあん!」
声はそう言っていた。声のほうに振り向くと、そこにちいさな檻があり、檻の中に例の耳の
大きなリスネズミがいたのだった。
「パピロ!」
ピートはビックリして声を上げる。
「こんちは、マスター。元気だった?」
パピロはニッコリ笑って言うと、檻の扉をトントンと指で弾く。さっさとここの鍵を外して
よ、と驚いて見ているピートに目で催促していた。何ボケッと突っ立ってるんだろうね、この
回路不良のポンコツ機械は。パピロの目はそう言っていた。
いくらマスターがポンコツでも、いつまでもただ突っ立っているわけじゃない。ピートはマ
スターの機械の指で檻の鍵をねぎ切ってあげた。
「ここで何してるんだ?」
檻から出してやったパピロに尋ねると、パピロは胸を張って「エヘン」と言った。自分は偉
いのだ、と態度で言っている。何故、いきなり偉そうに振る舞うのか、例によってピートには
わからなかった。
「すごいでしょ」とパピロ。「おいらね、捕まっちゃったんだよ」
「見ればわかるよ」
でも、どうして森へ帰ったはずのきみが、ケダック族に捕まったりするんだい?
「あのね、おいらはアーバムたちに言われた通り、すぐ森へと帰って空気の粒の大きさをね、
調べたわけなの。ホラ、もし何か異変があるとしたら、空気の密度が変わるって、アーバムた
ち、そう言ってたでしょ。憶えてる?」
「もちろん、憶えてるけど」
「おいらね、ちゃんとそれを実行したの。偉いでしょ?」
だから、エヘンプイをしてたってこと?
「でね、おいらの見る限りじゃ空気の粒の大きさは特に変わってないみたいだったの。森は大
きくも見えなかったし、小さく縮んじゃってたわけでもなかった。だからどうして浜辺のグノ
ートンが遠吠えなんかしてたのか、その理由をもう一度調べなきゃならなくなったの。またア
ーバムん所まで行って、ひとつだけ質問して帰ってくるってのも大変だしさ」
そりゃ、あの急斜面を頂上まで運んで行ってくれるお人好しは滅多に現れないだろうから、
大変ではあるだろう。
「で、おいらはホラ、人望があるコだから(エヘンプイ)みんなからぜひグノートンに直接訊
いてくれって頼まれちゃってさ。そんで夜になるの待って、浜辺まで出掛けてったわけなんだ
」 太陽のあるうちはグノートンはぐうぐう昼寝ばかりしてるからね。
「そうしたらマスター、驚き桃の木、びっくり仰天。浜辺に星が降ってた。まるでスコールみ
たいにザァァッと星が降ってたんだ」
文字通りの「星降る夜」だったわけだ。
「けどマスター、きみなんかはそれで腰抜かしちゃうだろうけど、おいらはエヘンプイな子だ
から、いつまでも棒立ちになってたりはしないよ。おいらはこれはいったい何事だ、と捜査に
赴いたんだ。そしてよくよく目を凝らして見れば、それは星じゃなく」
ケダックの巨大外輪船、だったんだよね。
「ドンロンなんてものを目にするのは、さすがのおいらもはじめてだったからたまげたな。そ
してピンッとひめらいたんだ。グノートンが遠吠えなんかしてたのは、じつはこのドンロンの
襲来を予知してたからなんだなって」
火山や地震じゃなく、ケダックとの戦争がはじまろうとしてるんだ。だからグノートンは吠
え立ててたんだ。そしていま浜に、何も知らない寝静まった森に、ケダックの大戦艦が忽然と
現れた。大変だ。一大事だ。
と、パピロは思ったらしい。
けれど彼はその急を報せるために、森の仲間のもとへ走ったりはしなかった。何故って
「ホラ、おいらはみんなからグノートンに直接遠吠えしてるわけを訊いてくれって頼まれてる
わけだからさ、それをちゃんとやり遂げなきゃみんなからの信用をなくしちゃうじゃない?」
信頼される者は、その信頼を失わないために、それこそ血のにじむような努力を続けなけれ
ばならない。ホント、人から信頼されるってのも中々たいへんだよなぁ。困っちゃうよなァ。
パピロは「まいったまいった」と頭をかいた。
ひとりで喋って、ひとりで納得しているパピロは、やっぱり何だかとてもヘンテコなネズミ
だった。
(つづく)
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